シリーズ「眼」 Series"Eye"
原発事故でクロ-ズアップされた「内部被曝」や広島・長崎の悲惨を表現した核と音楽や絵画などの芸術、また広島の被爆者を長期に亘って診てきた医師が語る放射能の中で生きていくことなど、思いつくままの話題のメモです。
新聞第一面に「甲状腺被曝 子どもの45%」
政府の原子力災害対策本部が四か月も経った今頃になって(8月17日)、3月24から30日までの1,150人の子どもたちの内部被曝の検査結果を明らかにしました。政府担当者はその結果について「問題ないレベル」だとしています。(8月18日の朝日新聞)
子どもたちの内部被曝は、全体の55%が 0、最高は1時間当たり 0.10マイクロシーベルト(μSv/h)のデータの説明です。またしても根拠に乏しい安全宣言。素直に信じる国民がどれだけいるでしょうか。
その説明会に出席した保護者は、「あまりにも遅い、子どもを外で遊ばせるのではなかった」と憤り、同席した子どもの一人は、「放射性物質が入ってしまって本当に大丈夫なのか教えてほしい」と不安をもらしたといいます。ありうべからざる政府の対応です。
またしても原発事故の事実の後出しです。重大な人災に人災の上塗りです。迅速な発表によるショックを避けるためと言い訳するのでしょうが、政府の義務は速やかに事実を伝えて、被害を最小限にして国民を守ることです。こんな常識をいわなければならないこの国の不幸。
重要な事実の遅れた日本の公表の遅れに比べて、欧米のフクシマ原発事故に関する反応の迅速でした。
[専門的な用語]
シーベルト Svは人体などがどれだけ「被曝」(爆)したかを測る単位で、千分の一がミリ m、そのまた千分の一(百万分の一)がマイクロ。ベクレル Bqは放射性物質が「放射線を出す激しさ」の単位。シーベルト Svは受けた被曝量で、1時間や1年間等の時間の割合で示されることが多い。ベクレルは1秒あたりにでる放射性物質からの数で、毎秒1個の 放射線を出す割合が1 Bq。広さ当たり(1平方メートル)Bq/m×mや重量あたり(1 kg)Bq/kg、また時間あたりなどで表される。
迅速に原発事故に応じた欧米
ドイツ放射線防護協会は、事故から10日足らず後の3月20日には「日本における放射線リスク最小化のための提案」をネットに出して支援をしています。記事は一連の「原発事故-海外からの報道」の一つで、すべて日本語訳があります。この記事にアクセスすると他の全記事が読めます。
このドイツの提案は、福島第一原発の事故では放射性ヨウ素が多く検出されているので、サラダなどの葉物野菜は摂取しないことを推奨しています。日本では政府の発表が遅れ、子どもたちはすでに汚染度の高い野菜類を食べていた可能性が高いのではないでしょうか。
この提案を読み進めると、現在のドイツ放射線防護令の規定に基づいて、検出されたきわめて高いほうれん草の放射能の値-1 kgあたり54,000 ベクレル(Bq/kg)の放射性ヨウ素131による内部被曝量まで計算していました。
人工放射性ヨウ素は甲状腺に集まり濃縮されます。ドイツ放射線防護協会の内部被曝量の計算では汚染されたほうれん草を100gを食べると、乳児(1から2歳未満)の甲状腺の被曝線量は20 ミリシーベルト(mSv)、7歳~12歳で同 5.4 mSv、17歳以上で同 2.3 mSvで、ドイツの法令の限界値の年間 0.9 を何倍も超るとしています。
年間 0.9 mSv/yは1時間当たりで 0.1 μSv/hです。
今回の政府のデータは甲状腺の内部被曝量であり、放射性ヨウ素による汚染であり、その最高値の 0,1μSvは、ドイツの放射性ヨウ素の規制値と同じです。
同じ値ということは、もはや「問題ないレベルではない」のではなく、たとえそれが一人であっても問題ないレベルでは絶対にありえません。しかも該当する子どもにとって由々しいことですが、個別にはその数値は知らされていないというのです。
発達期の子どもは放射能の影響を受けやすく、影響は発達の程度により異なるので、一律に安全といえないにもかかわらず、「問題ない」と断言するのはどんな神経なのでしょうか。
このような場合、政府担当官は危険がある値として公表するのが当然なはずです。今となっては遅きに失しますが、甲状腺がんを起こすリスクを下げるために、ヨウ素剤を与える処置(すでに実施されている?)や、野菜などの摂取上の注意を喚起する必要があったはずです。それを怠ったので、後出しの公表となったのでしょう。
しかも日本のこの基準値=規制値は3月17日に暫定値として改正され、飲料水の放射性ヨウ素は毎時 0.10μSv から5.7μSv と 55倍も引き上げられました(厚労省の食品安全の通達では300 Bq/kg でこれからの係数かけて換算)。
この換算値のもとの食品安全委の通達は、原子力安全委の示した指標値(右図)でこれを暫定規制値としています。ところで暫定とはどんな期間かですが、明確な定義はなく、原子力安全委の防災対策の冊子から判断すれば、原発の事故での放射性物質の放出継続時間である24時間です。従って政府は根拠のない暫定時間に基づいて行政を行っているのです。その原因は、今度のような複数の原発事故の事態が想定外だったためというのことです。(「高すぎる日本の暫定規制値 主食のコメは本当に安全なのか」 週刊金曜日 8月26日号)
規制値の大幅な緩和は原発事故という異常な放射能の放出の緊急事態によるのですが、根拠に乏しい規制値に変更した上での「問題ない」です。政府への批判を避ける姑息、かつ今後に起こるリスクを無視した悪質な改正です。かくして怪げな改正値が法的な権威を与えられ、メディアはそれを鵜呑みにして報道を続ける事態が進行しています。
ちなみに世界や他国の「基準値」の例は次の通りです。
水道水:WHO=1, 独ガス水道協会=0.5,米法基準=0.111,日本= → 300(以前は基準なし) 単位 Bq/L≒Bq/kg(
バーで女性をピックアップする方法放射性ヨウ素(I-131): 独=(7.7?), 日本=10 → 300 単位 Bq/kg
放射性セシウム(Cs-137):独=7.7, 日本= 10 → 200 単位 Bq/kg → の後は改正値
日本の大きな「基準値」。この日本の放射能の過小評価のあまりにも大きいことに怒りさえ覚えます。
ドイツでは細胞分裂が大きい子どもの年齢に配慮して規制していますが、厚労省の通達では、改正の一覧表の下に 注)として「100 Bq/kgを超えるものは乳児用粉乳や直接飲む乳に使わぬよう指導すること」とあるだけです。
日本は官主導で、厚労省や文科省などの行政機関が担って「規制値」を設定しています。その値は現実の測定放射線量に合わせた値で、行政的な対策が可能な範囲に設定し、「ただちには影響はなく」、後年がんなどになるリスクを考慮した厳しい設定ではありません。
ドイツではチェルノブイリの事故の経験に基づいた専門の組織、 ドイツ放射線防護協会があって、民主的に設定されているのでしょう。この協会は日本への提言の中で、「飲食物管理や測定結果の公開のために、市民団体や基金が独立した測定所を設置することが有益」と記しています。日本でもこのような方向へ向かうことが望まれます。それには民の声を大きくしていかねばならないのでしょう。
ところで、この8月23日、規制値が設定されていない対象があったことが報じられました。幼稚園などの砂場です。
原発から200km離れた東京の放射線量を測ってほしいという強い要望で、葛飾区が保育園の砂場を測定したところ 0.31μSv/h が検出されました。区は独自の目安として0.25 μSDv/h以上を使用禁止としました。葛飾区だけでなく東京都には五つの区に同様な禁止の目安があります(上)。
その中の足立区では禁止場所の対策として、小中学校の校庭の砂を削ってこれを三重に袋詰めし、地下1 メートルに埋め込んでいます(その費用すでに1,000万円)。使用禁止の目安は各区毎に少し違いますが、これは国に基準がないためで、区が独自に決めたことによります。(NHKニュースウォッチ9 2011/8/23)
区側の問い合わせに対して、文科省は「相談窓口を活用していただきたい」、国土交通省は「公園を含めて基準を検討中」との返答でした。
原発事故半年近くも経った後の返答です。
放射能の被爆に弱い子どたちが直接触れて遊ぶ砂場では、誤って園児の口から砂が入れば内部被曝です。それを考えて園と保護者は砂場をシートで覆って緊急の対策をしています。
市民としては禁止の「目安」といわれても不安がつのります。区はその声を背景にして、非・反原発推進の放射能の専門家の協力をえ、他の自治体と広く連携して、「目安」を基準値=規制値を目指す方向に向かえば、それは市民側からの規制値設定への一歩となります。期待したいと思います。
「ただちに健康に影響はない」、と内部被曝
「問題ないレベル」は、これまで専門家や政府高官から再三聞かされた、「ただちに健康に影響は与えない」の常套発言と同じです。「影響がないというのであれば、では影響がある値は?」と問われて政府担当者は答えに窮したとききます。学校の校庭で運動できる放射線量が毎時 0.19 μSv(年間1mSv)から3.8 μSv(年間 20mSv)に引き上げられ、その決定に母親が抗議した時のことです。政府側はやむなく 0.19 μSvを目指すと譲歩しました。これも姑息な譲歩ですね。
ついでですが放射線の被爆に対する正しい判断は「ただちに健康に害がないかもしれない。しかし放射線の本当の恐怖は、内部被曝によって後から生じる晩発性影響である。内部被曝は外部被曝と違った作用で、長期間人体を損傷し続ける」です。(「人間と環境への低レベル放射能の脅威」R. グロイブ/A. スターングラスあけび書房2011の訳者 肥田舜太郎他の紹介)
体外(外部)被曝は、放射線源が体外にあって被曝する場合。内部被曝は放射性物質を吸気を通し、また食物や水を口から体内に取り込む被曝です。人工の放射線は、自然放射線と異なり体内の特定器官に集中し、濃縮される性質があります。放射性ヨウ素131は主に甲状腺に濃縮されます。
内部被曝で一旦体内に取り込まれた放射能物質は、その至近距離に直径7~8 マイクロメートル(ミクロン)の細胞があり、体外被曝では貫通力の弱いα線やβ線も細胞に到達し、細胞核の遺伝子を傷つけます。α線は電子のないヘリウムの原子核で、空気中では45mmしか飛ばず、体内では0.04mmしか飛びません。β線は電子の流れで、空気中では1m、体内では1cmほどです。
内部被曝に詳しい肥田舜太郎さん(94歳、写真)は、「ただちに影響を与えるものではない」と発言する専門家は、被曝者を診たこともない者だと断言しています。
肥田さんは6千人以上の広島の原爆被爆者を診察し、体調がすぐれない「原爆ぶらぶら病」(シンドローム)の原因のは何かがあると考えて追及し、それが内部被曝の表れであることを解明をしてきました。(「内部被曝の脅威」肥田舜太郎/鎌仲ひとみ著 ちくま新書2005年 2010年第7刷)
低線量の放射線は微量なので、被害は一切無視できる、あるいは取るに足らないものだという主張(国際放射線防護委員会ICRPなど)に終止符を打つには、低線量の放射線の被爆である内部被曝のメカニズムの解明が必要と考ました。
肥田さんの明らかにした内部被曝のメカニズムは複雑です。体内に入った高いエネルギーを持つα線やβ線が活性酸素を発生させ、最終的に細胞膜などにダメージを与えて、がんを発生させたり、一見なまけ病に見える「原発ぶらぶら病」の症状をもたらします。
なぜ中国の万里の長城であったまた放射線による内部被曝では、原爆の被ばく生存者と一般国民の疾病の罹患率を比較した結果、原爆の被ばく者は晩発性のがんだけではなく、通常の腰痛や高血圧、視覚、神経障害などの疾患にかかる率が著しく高くなることが認められています。これは原爆に被曝するとごくありふれた病気にかかりやすくなるということで、原発事故の被曝者もまた一般的な病気にさいなまれることが多くなることを示唆しています。(「内部被曝隠しと安全神話」矢ヶ崎克馬 週刊朝日緊急増刊:朝日ジャーナル「原発と人間」 2011/5)
放射線の人体への影響の解明には多くの壁がありますが、肥田さんはその壁の一つである、細胞膜の大きな障壁に関する「ペトカウ効果」を重視します。
「ペトカウ効果」はカナダ原子力委員会のA. ペトカウがそれまでの考えを覆えした大きな発見です。
この「ペトカウ効果」とは、「長時間、低線量放射線を照射するほうが、高線量放射線を瞬間放射するより、たやすく細胞膜を破壊する」 ことで、これは何度もの実験の繰り返しから確かめられました。常識的な考えに反して、細胞は低線量の放射線に長く曝されるほうが容易に傷つけられるのです(前掲「内部被曝の脅威」 鎌仲ひとみと共著 ちくま新書 2005)
原爆が広島や長崎に投下された当時のアメリカは、原爆による被害は短時間の外部被爆だけだとして、内部被曝を知っていながら必死に隠ぺいし続けていました。これを認めれば人道的見地からも原爆の使用を否定せざるをえなくなるからです。
その状況の中で、肥田さんが被ばくによるさまざまな疾患は内部被曝であると考えるに至った道のりは長かったといいます。
1954年に美しいビキニ環礁で行われたアメリカの水爆実験で第五福竜丸が「死の灰」をあびて漁師27名が被爆しました。無線長の久保山愛吉さんは原爆症で亡くなられました。 漁師達の被爆者はこの水素爆弾の爆発実験でまき散らされた「死の灰」を体の中に取り込んだのです。これらの体外被曝では説明できない内部被曝の存在を明らかにする契機になったのです。(NHK ドキュメンタリーWAVE「内部被曝に迫る」 2011/8/14など)
この水爆実験場は2010年に「サンゴの海の核実験場」として世界遺産に登録されました。核実験はビキニ環礁だけで23回、マーシャル諸島では67回もおこなわれました。
第五福竜丸が被曝した水爆の名は「ブラボー」 (すばらしい? 右写真)で、その噴煙は上空 35kmまで舞い上がり、海底には直径 2 km、深さ 80 mの巨大なクレーターができました。海底の生物は死に絶えて、現在でも白いあばたのような姿をさらしています。美しかった海底のサンゴは殺され、粉雪のように風に乗って流され、「死の灰」となって爆心地から160 kmでマグロ漁をしていた第五福竜丸に降り注ぎました。その量は乗組員の致死量の3分の1 にも達したといわれます。
この死の灰は、第五福竜丸の船体から採取された白い粉末や細かな砂をみればよくわかります。(写真:左と下がビンの底の拡大した砂)。死の灰はサンゴなどの海底の生物が体外被曝したものです。
現在のビキニ環礁の残留放射能は、砂浜では 0 μSv/h(0.1 mSv/y)と測定されていますが、地面に残った放射性セシウムがヤシの実などに移行する恐れがありました。
その対策としてセシウムと化学的性質が同じカリウムの肥料を施肥した結果、放射性セシウムを95%減らすことができることがわかりました。この研究結果は今、ビキニのささやかな希望となっているといいます。
ビキニの水爆実験への怒りと不安は、3,200万名もの署名を集め、世界の核軍縮への道を歩ませ、12年に亘った水爆実験は1858年に終止符が打たれました。(TBS 世界遺産 2011/8/21)
核と芸術(音楽、絵画)
「久保山愛吉の墓碑銘」
久保山愛吉さんで思い出す現代音楽があります。当時西ドイツの電子音楽の先駆者の一人であったヘルベルト・アイメルトが、久保山さんの被爆を知って、数年後に作曲した「久保山愛吉の墓碑銘」です。
この曲は久保山さん死についての簡単な説明、<墓碑銘>の朗読でドイツ語で始められ、朗読されたドイツ語発音の「アイヒヒ・クボヤマ」が電子音楽の手法で提示され、これがさまざまなに展開されて繰り返えされます。ここにお聞かせしますのは電子音楽の部分の最初の部分です(LPレコードからMP3へ変換/全曲約23分の約1分)。
古典的なクラシック音楽では聴くことのない、電子音楽の異様な音と化した「アイヒヒ・クボヤマ」は、眼に見えない放射能の恐ろしさを伝えています。
「広島の犠牲者への哀歌」
ポーランドの現代作曲家クシュイトフ・ペンデレツキは、1964年に52の弦楽器のための<広島の犠牲者への哀歌>を広島市長に献呈しています。演奏は大編成のワルシャワ国立管弦楽団で、大気を引き裂くような金属的な鋭い音で始まります。空爆と受け取られる所もありますが、核の脅威へのおののきでもあり、また人間の魂の叫びでもあります。
「広島市長に贈る 」 K. ペンデツキ クラカウにて 1964年10月12日
この「哀歌」をおさめたレコード(LP)を、心をこめて贈ります。これによって私は、広島の犠牲者へのつつましい敬意を捧げます。ーーーーーーー広島の犠牲者は、決して忘れられ消え去られることなく、広島が、善意の人々すべての友愛の象徴となるであろうとの私の信念を、この「哀歌」に表現したいと願います。
赤いシダはch 14の概要を育てどこ
アイメルトを生んだドイツは第二次大戦時の大虐殺の国の、ペンデレツキは18世紀以来外国の被害に苦しんできたポーランドの作曲家です。アイメルトは1989年生まれ(1972年没)、ペンデレツキは1933年に生まれています。時代に36年の開きがありますが、二人の共通点はともに核の時代の音楽を切り開いてきた現代作曲家であることです。今改めて聴いてみて、これらの作品は、抽象性の高い芸術としての音楽が、国境を越えて核の悲惨を表現した類まれなものだということを再認識しました。
「原爆小景」
日本では1931年生まれの林 光が合唱曲「原爆小景」を残しています。歌詞は原 民喜の詩です。1)水ヲ下サイ 2)日ノ暮レチカク 3)夜の3つの楽章からなります。「水ヲ下サイ」 の始まる部分をお聞かせします。 林 光は新藤兼人の「第五福竜丸」の映画音楽も作曲しています。
これら手元にある 三枚の LPは43年ほど前のものです。いずれも現代音楽の古典となっていますが、フクシマ原発の事故で音楽の訴求力を改めて確かめました。今回の事故はどのような、新しい音楽を創出するのでしょうか。
「明日の神話」
芸術は爆発だ。渋谷の地下に展示されている岡本太郎の巨大な絵画「明日の
神話」は、あたかも原発事故の水素爆発を予言していたかのような強烈なエネルギーを発しています。この絵には第五福竜丸が描かれています。
丸木位里・丸木俊夫妻が共同制作した<原爆の図>が8月31日まで東松山市で開かれています。夫妻ともに原爆の被ばく者で、展示されている作品「救出」には夫妻の姿が描きこまれています(丸木美術館学芸員 岡村幸宣 東京新聞2011/8/3)。
アメリカの20世紀のの代表的画家、ベン・シャーン(ユダヤ系リトアニア人1898-1969)がLucky Dragon-第五福竜丸のシリーズを描いています。無線長だった久保山愛吉さんや彼が伏したベッドなどの絵です。ベン・シャーンはアメリカの画家としては珍しい社会派の画家ですが、そのグラフィックなタッチで、人間の感情を独自に表現しています。モノクロの写真(下)は、日本で開催されたベン・シャーンの絵画展で、ベンの絵の前に佇む久保山さんの奥さんです。(伝記 "Ben Shann" Howard Gerrnfeld, RANDOM HOUSE NY 1998)
国際放射線防護委員会と欧州放射線リスク委員会
かつて原爆症認定集団訴訟で大阪高等裁判所は、人工の放射線は確率的影響(必ず起こり得る確からしさ)があるとして、微量であっても乳幼児のがん死亡率が増加するとしたグーグル、ゴルドマンの著書の図を引用し、低線量被曝または内部被曝を過小評価することを断罪しました。
国際放射線防護委員会(ICRP)には、その名称から受ける印象とは異なり、、ある程度の犠牲はやむを得ないとする規約条項があって、内部被曝を否定しています。この7月、NHKのニュースウォッチ9で内部被曝の討論会が放映されましたが、内部被曝はないと断言した参加者がいました。後で調べるとそれはICRPの日本委員でした。
[内閣府の食品安全委員会作業部会は、生涯の累積被曝線量を100mSvとしたが、福島と近県の測定は行っておらず外部被曝と内部被曝*の区別はなく、英国国のNPOにすぎないICRPが定めた基準を「国際規格」であるかのように振りかざされている」と批判されています。(「論壇時評」金子 勝 慶大財政学 東京新聞2011/8/25夕刊)
ICRPと対照される組織である欧州放射線リスク委員会(ECRR)の考え方は、人間の健康を防護を基準としていて、ドイツなどの欧州で採用されています。両者には、しばしは引用される見解の違いがあります。
放射線で犠牲になった戦後の人数は、ECRRが 6,500万人、ICRPの基準による推定は、117万人です。この大きな相違は内部被曝を無視するか否によるものです。
日本では、高裁の判決があったにもかかわらず、ICRPの功利的なやり方を追随してきました。自民党政府と東電を頂点とする電気事業者連合会は原発を国策としての推進です。原発立地の自治体には迷惑使用料(電源三法交付金)がばらまかれ、また安全神話のPRに多額の税が使われてきました。原発事故は原発立地の自治体にとって最小限の安全確保である放射能測定器さえなかった実態をさらけ出しました。
ちなみに経産省の原発予算はでたらめで、2008年の「原発は安全」などの無意味な広報予算は138億円であったと報じられました。(「アエラ」1011/8/8)
安全神話の罪悪
「災害はそれに見舞われた社会の断面を一瞬にして浮上させる」とし、まさに一瞬にして大複合災害が「疲弊している地方」におびただしい数の原発が持ち込まれたと喝破したのは経済評論家の内橋克人さんです。安全神話づくりには東大教授、男女キャスター、脳科学者にスポーツジャーナリスト、文化人等々が動員され、パブリックアプセプタンス(社会に受け入れられ、認知を求めるための働きかけの)PA戦略の片棒としてはせ参じました。
(内部)被曝はスロー・デス(時間をかけてやってくる死)を招くとまとめたアメリカの「マンクーゾ報告」も紹介しています。これは原爆の強烈な外部被曝によるサドン・デス(突然の死)に相対する言いです。(世界2011/5等)
佐高信さんは、電力会社に群がる原発文化人25名を「原発文化人の罪」として論告求刑しています。 (週刊金曜日(2011/4/15)(養老孟司、茂木兼一郎、北野武、渡瀬恒彦などのセレブ)
放射線の時代を生きていくには
3・11以後の日本には、人工放射能に汚染されていない地域はほとんどなくなってしまい、加えて人工放射能に汚染されていない食べ物を摂取することは困難になっています。
放射性物質の甲状腺に集まるヨウ素131、膀胱に集まるセシウム134, 137だけでなく、造影剤として使っていた トロトラストが 20-30年後に肝臓がんを発症させる確率が25-30% あり、放射性物質と健康被害は後年因果関係が証明されるものが多く、統計学的視点の判断は子どもたちを守る視点に立っていないと強調したのは児玉龍彦 東大アイソトープセンター長です。(7/27の衆院厚労委員会での証言)
野菜や肉は九州産や西日本産、卵は九州産や外国産、水はミネラルウォター。自宅の床や壁、また雨で濡れたカッパなどは水で除染しても福島の子どもの尿から放射性セシウムが検出されたことが報じられました。
これを知った、埼玉県住む女性は、検査料3万円を払い山形県の環境調査会社に検査を依頼。その結果は、尿1kg あたり0.4Bqを超えるセシュウム137でした。「ショックと、やっぱりという気持ちの両方でした」。このことを学校に問い合わせても大丈夫の一点張りでした。(「アエラ」 2011/8/22)
汚染された藁による肉牛からは暫定基準値 500Bq/kgを超えた 2,300Bq/kgが検出され、疑いのある牛肉が全国に出荷されて、一部は消費者の口にも入っています。
しかも事前の牛の体表の放射線量値はクリアしていたというのです。牛の内部被曝は明らかでした。藁による汚染は「想定外」であったことはある程度理解できますが、問題は放置された藁の田んぼの土壌の測定点は少なく、しかも放射線物質は地表 5cmの表層にとどまるという研究がありながら、15cmまで深く土を混ぜたというのです。そのために測定結果は地表面の線量を大きく下回って、土壌の高い放射能の藁は関心からはずれ、その藁を食した牛が内部被曝したのが実態です。稲わら-牛肉汚染は、基本的には、万全を期すべき対応を怠った政府だと糾弾されています。(日本を揺るがす稲わら-牛肉汚染」 北林寿信 世界9月号)
魚介類では、外国の専門家が参加したグリーンピースジャパンのチームが、この 5月に福島沖の海の生物のサンプルを採取、海外の試験機関に依頼してえた測定結果を公表しました。結果は、アイナメ、カキ、マナマコに高い放射性セシウム、また海藻では、年間 1kg摂取すると 2.8mSvの内部被曝量に達する放射性ヨードを検出しました。グリーンピースはこの結果をふまえて、日本政府に徹底したモニタリングや原発の汚染水の海洋環境への放出などを禁止することを要請しました。これに対する直接の対応はありませんでしたが、結果としてモニタリングが強化されたそうです。
グリーンピースの7月22日~24日の再度の海洋調査でも、すべてのサンプルから放射性物質を検出し、依然として福島沖の汚染が深刻であることが判明しました。
政府による魚介類のモニタリングが強化されたとはいえ、食品分析の測定器は少なく、海産物の全量検査ができない体制は依然として問題と指摘されています。
緩すぎる基準値=規制値の判定でさえこれを超える食品の摂取を余儀なくされているのが現実の日本です。日本では多かれ少なかれ日本で生産または獲られた食品を食べる限り内部被曝を避けることは不可能になっています。
この事実にどう対応して生きていけばよいのでしょうか。
内部被曝を解明してきた肥田舜次郎さんは、被爆から逃れるにはどうしたらよいかと聞かれて、
今も原発は微量であっても放射能がだされており、「厳しいかもしれませんが、完全に逃れるのは不可能と開き直って、免疫力を上げよと話してきました。広島や長崎でも実際にそうして生き延びてきた被爆者がたくさんいます。
アメリカの核施設から160キロ以内で乳がんの死亡率が高くなっていますが、日本はほとんどの地域が160キロ以内です。自分と自分の子だけが助かろうとしてもダメ。みんなで放射能の出る源を絶って放射能から逃れる必要のない世の中を目指すことが大切です」。(放射能との共存時代を前向きに生きるー「世界」2011/9の対談)
牛肉、野菜類に魚類が汚染され、主食のコメも心配です。8月25日の千葉県の予備調査では規制値を下回るとはいえ、玄米1kgあたり放射性セシウムが47Bq 検出されました。主食のコメの摂取は一日約900g。もし暫定規制値 500Bq/kgのコメを食べ続けると、野菜類の摂取と合わせると内部被曝量は暫定規制値の年間 1 mSvを超えて2~3 mSvに達するとの試算され、規制値の一桁以下に改めるべきだと強い要望がだされています。(前掲 週刊金曜日8月26日号)
今後の本調査の結果が懸念されます。
メディアや自治体のHPによれば、原発事故で放出された放射能は、ポット・スホットを含めて全体としては減少してきています。例えばホット・スポットで名高くされてしまった福島県浪江の赤宇木(あこうぎ:原発から31km北西の計画的避難区域)の放射線量は、原発事故直後で、58~70 μSv/hと極めて高い値でしたが、その後急激に下がり、4月=26、6月=20、8月24日で15μSv/hと低下しています。ただし福島以外のホット・スポットの柏市や我孫子市などの東葛 7 市では、短期間の測定のためか初回の6月14日と第5回 8月8日の値は最大 0.5μSv/hでほとんど変化がありません。
一方では埼玉県の一部で増加している地点があり、埼玉県は独自の原発対策を検討することになりました。原発の収束はこの先いつになるか見通しは立っておらず、放射能とは長期にわたる付き合いが避けられません。
肥田さんの勧める放射能時代を生きていくポイントは免疫です。
免疫を高める基本はバランスのとれた食事を摂ることでしょうか。
問題は満足な食事を摂ることができない生活を余儀なくされている人々ですが、これは自治体と国の政治の出番です。
トピック中心で、思いつくままのまとまりに欠けるメモになりました。
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